2009年3月1日日曜日

リオのカーニバル


一生に一度は見ておきたいものの中で現実には難しいかなと思うものもある。その一つがリオのカーニバル。何せ日本から見て地球の真裏の国で行くのが大変。さらにエジプトのピラミッドや中国の万里の長城と違っていつ行っても見られるわけではない。GRUPO ESPECIAL(スペシャルグループ)と呼ばれるあの有名なパレードが見られるのは年にわずか2日しかないのだ。

カーニバルの時期を狙ってリオに行くのは無謀と思いつつ飛行機の空き状況を調べたところ、なぜかいとも簡単にとれた。ところが問題はホテルで、世界中の観光客がこの時期を狙って来るらしくどこも満杯。しかもどのホテルも通常の倍以上の料金で、一週間固定の“カーニバル・パッケージ”にして売り出している。この時期に来るなら一年前から予約しなければだめだといわれたが、サラリーマン時代よりも自由がきく身とはいえ一年も前から“サンバ休暇”をリザーブしておかれる身分ではない。

これまでにもホテルの予約なしに海外旅行に行った経験はあるが今回は事情が違う。時期が時期なだけに現地に着いてからホテルがとれる可能性が低く、さらにリオに行ったことのある同僚からは危険な場所なので行くあてもなしに町に出てはいけないと注意されていた。しかもブラジルは英語が通じない。今回のワーストケースシナリオはリオの空港でホテルが取れないことだったが、その場合の“次善の策”というのが思いつかなかった。

夜の7時にリオの空港に着き、入国・通関を済ませて到着ロビーの案内所に直行した。中にいた女性にホテルを探している旨伝えたところちょっと驚いた顔をされ(あるいは呆れられたのかも知れない)、「探してみるけど保証はできない」としごく当然のことをいわれた。そして何軒かにかけて断られた後、奇跡的にコパカバーナにあるホテルが滞在期間中二度部屋を変わる条件で私が希望する4泊分用意できるといった。料金もこの時期としてはリーズナブルだという(それでもホテルのランクにしてはかなり高い)。一も二もなく同意した。

さて肝心のカーニバルのパレードだが、こちらもチケットも取らずに来たので現地で購入するしかない。しかし値段を聞いてみるとどうも定価というものがないらしく、売り手の言い値で売られているように感じられた。もちろん席によって価格は違うだろうが、同じセクションの切符でも人によって350リアルといったり280リアルといったりする。流通量は十分にあるようだったので、当日会場で買うことにした。パレード開始直前にゲートの前に立っていると案の定、切符を手にした人が寄って来た。何人かに値段を聞くと最安値は200リアルだった。手持ちがあまりないというと何と165リアルまで下がった。日本円にしておよそ6,600円。パレードの入場口に近いところなのであまりいい席ではなかったが、前日まで350リアルと聞かされていた席なので初めて来た旅行者としてはまずまずだろう。2日目にはパレードがスタートした1時間余り後に行ったら同等クラスのチケットが何と50リアルで買えた。まさに大暴落。

夜の9時過ぎから始まったスペシャル・パレードは想像を超えるものだった。参加できるのは最高峰のチームだけだが、その一つ一つが両側に観客用のスタンドがある1キロはあろうかという道をおよそ1時間かけて行進していく。各チームとも数十人あるいは100人単位で同じ衣装をまとったグループが次から次へと通り過ぎて行く。先頭と最後尾、そして中間のところどころに出てくる“山車”は3階建ての建物に匹敵する高さのものまであり、その上で派手な衣装をまとった人たちが踊っている。参加者が一年の蓄えをすべてつぎ込んでいるという話が説得力を持つ豪華さだ。ブラジル人はサンバの音楽を聞くと血が騒ぐのか、会場も興奮の渦に巻き込まれて大合唱が始まる。こればかりはテレビで見てもなかなか伝わらない。

世界的に有名なコパカバーナやイパネマの広大な砂浜、リオのシンボルともいえるコルコバードの絶壁に立つキリスト像も一見の価値があるが、できればカーニバルの時期に来てパレードを見ることをお勧めしたい。私のように無茶はせず(こんなことをする日本人はあまりいないか)、一生に一度のことと思って多少高くても桟敷席からパレードを見ることができるツアーに参加するのがいいだろう。