2011年7月31日日曜日

成吉思汗

夏の盛りの札幌出張。商用があってのことだがあえてこの時期を選んだことに何ら不純な動機がないといえばウソになる(まわりくどっ)。近年の札幌は温暖化の影響か夏でも蒸すようになったが、それでも東京に比べれば過ごしやすい。

今回は週末までの滞在となったので(というか自分でそのようにしただけ)、毎晩のようにジンギスカン屋に行った。ホテルで勧められたのが老舗の有名店DとM。Dはオーソドックスな焼いた肉をタレにつける方式、Mは予めタレに漬け込んである肉を焼く方式。肉だけについていえばラムかマトンかを選べるMの方がおいしいと思ったが、難点は肉汁で焼く野菜の味が関東人でもきびしい濃さになってしまうことか。

Dは支店を2店舗出している上、観光客と思しき客が多かった。以前も同じ札幌のラーメン屋や広島のお好み焼き屋で経験したことだが、人気が出て拡大志向に走る店は味が落ちていたりする。地元で観光業に携わっていない人に聞いてみたところ、案の定、当地ではそのような評価を受けていて、地元で行く人は少ないとのこと。とはいえ塩だとかとき卵につけて食べる店もあるくらい味付けや食べ方にバラエティがあり、お客の側もそれぞれに好みがあるので地元で人気の店と問われてもラーメン同様一概にはいえないそうだ。唯一ビアガーデンで出されるジンギスカンはハズレがなく意外にあなどれないという。

ではなぜ地元に住んでいるホテルの人たちが有名店を勧めるのか。へたに自分が好きな店を勧めて客の好みと合わなかったリスクを考えると観光客の定番となっている店を勧めておいた方が無難ということがあるものと察する。「美味しい店はガイドブックなど信じず地元の人に聞け…ただしホテルの従業員は除く」というのが今回の教訓だ。

2011年7月23日土曜日

再転職

日本中が女子サッカーのワールドカップで沸いているさなかに届いた電機メーカー時代の友人からのメール。転職先のメーカーの駐在員として北京に赴任していたのだが、再び転職するために帰国するという。彼が初めての転職をしたのは40歳近くなってからだったと記憶しているが、その転職先の会社も2、3年で辞め、今の会社に入ってからもまだ2、3年しかたっていないはず。転職は癖になるといっていた投資銀行時代の同僚のことばを思い出す。

この友人とは同じ年にソニーに入社したときからの付き合いだが、配属先は私が本社の経営企画、彼は海外営業とまったく別の道を歩むこととなった。その後も付き合いは続いたが、一緒に仕事をした間柄でもなかったので彼の結婚式で挨拶を頼まれたときにはちょっと驚いた。しかしその後会社の別の友人からも結婚式の挨拶を頼まれ、私が彼らにとって悪い話を知らない程度の距離感がある“安全牌”であることに気づいた。

それはさておき、彼はソニー時代、今や新興国としてもてはやされているインドを担当し、その後会社の派遣で北京大学に1年間語学留学した。帰国後に彼が中国人と話しているのを聞いてその流暢さに驚いたが、その後転職した2社でも中国駐在となり、今度の転職先でも中国を担当するというから、メーカーでの経験に加えて語学力が買われたことは間違いないだろう。英語ができる人材なら掃いて捨てるほどいるが、北京語はまだ市場価値が高いようだ。

それにしても40半ばを過ぎてなお転職先があるというのは大したもの。運もあろうがメーカー一筋でありながら都区内に家を買い、中国で株に投資して大きな含み益をもつ彼の人生設計には感心する。北京ではゴルフ三昧だったらしく、今からしきりに誘われているが、羽振りもよくなったようなので何でも一円単位まで割り勘する癖が直っていることを願いたい。

2011年7月16日土曜日

斜陽の国

イギリスから久しぶりの大臣の来日。最近どの国も中国詣でが激しい一方で日本に来る要人はすっかり減ってしまい寂しい限りだ。イギリスもご多分にもれず就任したてのキャメロン首相が一大デリゲーションを率いて中国に行った一方で、大臣級の来日は同国での政権交代後今回が初めてだ。聞けば今回来日した大臣は連立相手の自民党出身の人物で、首相の意に反することも歯に衣着せずいうため疎んじられているとか。大使公邸で行われたレセプションでも日本の企業関係者を前に日本の市場の閉鎖性についてチクリとやった(いっている内容は正しいと思うが)。

我が社が業務委託を受けているアメリカの州政府からの突然のメール。来年度の海外予算が大幅に削減されるため、中国と欧州を残してほかの事務所の予算は凍結にするとのこと。優先順位に異存はないが、日本がゼロというのはあまりに極端。秋口に連邦政府の予算がおりれば日本の予算も復活するかもしれないというが、インドやブラジルといった新興国を差し置いて閉鎖的で成長が見込めない国に予算を割り振るとは思えない。かつて日本には全米50州のうちの半数以上が我々のような業務委託という形で事務所を構えていたが、年々その数は減る一方で、かたや中国にはすでに37を超える州が事務所を構えているという。

海外の政府機関からの委託業務をしていると日本の凋落ぶりを身に染みて感じる。国内産業を守るための非関税障壁がてんこ盛りの国も世界第2位の経済大国であった頃には見向きもされたが、人口が減り、購買力が落ち、景気も低迷する中ではとても関心がわかないのだろう。我が零細企業も“細々”と生き延びるために業務の多角化か業容の転換を迫られそうだ。

2011年7月9日土曜日

飲み友だち

先日クライアントを連れて移動中の電車の中で電機メーカー時代の同僚にばったり出くわした。彼女は私より前に寿退社をしたのだが、聞けば最近同じ部署にいた先輩社員の退職祝いの集まりに行ったという。年賀状も出さない不義理さからすれば当然かも知れないが、思えばメーカー時代の飲み会にはすっかりお呼びがかからなくなった…。

一方、ここのところアメリカのビジネススクール時代のクラスメートと投資銀行時代の同僚の集まりが続いた。ビジネススクール時代の集まりは年に一度、日本人の奥さんをもつ二人のアメリカ人クラスメートが来日する機会をとらえて行われるが、彼らもほかの多くのアメリカ人クラスメート同様、すでに一財産築いて半ばリタイア状態のいい身分だ。一人は日本の某有名大学の社会人向けコースで夏の間だけ教えていて、その名刺を誇らしげに配り歩いている。大学側はこうした名刺がほしい人たちを安く雇う一方で、学生たちからはしっかりと授業料をとることができる社会人コースを貴重な収入源にしているが、その名刺には大学のロゴとは別のものを使わせて学部の先生としっかり区別していたりする。

卒業後の進路がばらばらでその後の接点もないビジネススクール時代のクラスメートとの話題はもっぱら在学中の思い出話かバカ話。一方、投資銀行時代の同僚との集まりは何年かぶりのことで、皆現役で働いていることもあり、近況報告などで大いに盛り上がった。集まった6人のうち誰一人としてその投資銀行に残っていないというのがこの業界の人材の流動性が高さを物語っている。

ともすれば家と職場を往復するだけの毎日になりがちな零細事業者。たまの飲み会はビジネス以外の会話が少ない日頃のストレスを発散できる貴重な場で、精神衛生上も好ましいものと感じる。元同僚に限らず気の合う仲間とは定期的に交流をもち、老後のためにも茶飲み友達をしっかり確保しておきたい。

2011年7月2日土曜日

節電の夏

小社の小オフィスにも「電力使用の15%削減令」のお達しがあり、家主である大手不動産会社から具体的な行動計画の提出を求められた。電灯、パソコン、空調など、そもそも最低限の電力しか消費していない我がオフィスで15%削減というのは容易なことではない。南側が一面のガラス張りで日中はブラインドを開ければ電灯がいらない明るさだが、空調を強くしないといられないくらい暑くなる。逆にブラインドを閉じてしまうと部屋の中が暗くて電灯を使わざるをえない。苦肉の策?として7月と8月に1週間ずつ事務所を閉鎖して在宅勤務にすることにした。

東京では駅もビルもすっかり節電モードで消えている電灯が増えたが何ら支障は感じない。むしろこれまで昼間から無駄に明るくし過ぎていたのではないかと思う。節電中の駅の雰囲気はヨーロッパを思い起こさせる。当地の人たちは自然光を多く使い、電灯で無駄に明るくすることがない。それに近年増えた駅のエスカレーター。お年寄りや体が不自由な方のためのエレベーターなら分かるが、健常者が少しでも楽するように使われるだけのエスカレーターに貴重な電力を使うのは甚だ疑問。そしてエスカレーターばかり使っている人たちはやがて生活習慣病になり、医療費の負担増に寄与することだろう。資源のない日本がなぜあそこまで無駄に電気を使うようになってしまったのか?原発に依存せざるを得ないくらい消費があったのか、それとも供給側が必要以上に消費を煽ったのか…。

村上春樹氏がカラルーニャで述べたことはもっともと思う。公共工事の名のもとに美しい国土を削って道路やらダムやらを造ったかと思えば、雇用を創出する産業がなくていよいよ困っている自治体に札束と引き換えに原発の立地を受け入れさせ、ついには国土の3分の1を放射能で汚してしまった。このような事態に及んでもはや「入るを量りて出づるを制す」が不可避であることがはっきりしているのに、国民の間に不安を煽って原発容認に世論を誘導しようとしているように思えるのは私だけだろうか。東電が保有している大量の株式や不動産を見ていったいあなたは何屋さん?と聞きたくなるが、その金満ぶりは原発利権の根深さをも反映しているのだろう。我々国民は二度騙されないようにしなければならない。

話を我が社に戻すと、事務所を一週間単位で閉鎖することで何か支障があるか同僚と考えてみてもあまり思いつかない。メールはネットのアクセスさえあればどこからでも出すことができるし、電話は転送可能。大企業でないので社内会議もなく、在宅の同僚とのコミュニケーションはスカイプで済む。来客はあるが、営業の人以外はアポイントをとってから来るので日程は調整可能、荷物の受け取りや発送も1週間分まとめてもほとんど問題はない。資料の印刷なども予めわかっている企業訪問のタイミングに合わせてやっておけばいい。そう考えると計画性をもつことでふだんからあまり事務所に来る必要はなくなり、事務所の代わりにどこか涼しいところで仕事をするのが最大の節電方法という気がしてきた。