2011年2月26日土曜日

ソーシャルメディア

中東で吹き荒れる民主化の波。独裁者が電波と活字メディアをコントロールしていれば済む時代は完全に過去のものになってしまったようだ。

それにしてもソーシャルメディアの影響力には驚く。私も友人に誘われてフェイスブックをやっているが、エジプトの知人のスレッドには革命の最中のやり取りがどんどんとアップされていき、現地の様子と人々の思いが臨場感をもって伝わってきた。私がカイロに住むエジプト人だったらタハリール広場に行こうという気にさせられたかもしれない。

ムバラクにしてもカダフィーにしてもその蓄財ぶりもさることながら、ひとたび実権を握ると何十年でもやり続けるというのがすごい。サラリーマン時代、いつまで経っても得た地位にとどまって後進に道を譲ろうとしない幹部が少なからずいたが、その比ではない。カダフィーなどは権力の座に就いた頃は国家の英雄だったのかもしれないが、それは今デモに参加している若者たちが物心がつく前のことで、居場所を失った元英雄の悲哀を感じさせる。

今中東で起きている民主化の動きが中国に波及するかというのが興味深いところだ。政府が情報をコントロールしているが、国民がその事実に気づいていないわけはないし、共産主義とは名ばかりでコネのあるなしで将来が決まってしまうような社会(胡錦濤や温家宝の息子は様々な企業の株や鉱山まで保有しているという)では不満が出ないわけはないだろう。加えて最近では日本軍と戦って中国を独立に導いたのが共産党軍ではなく国民党軍であったということに多くの国民が気づき始めているという。

最近電車に乗っていると新聞や雑誌を広げて読んでいる人が減り、スマートフォンなどの携帯端末に見入っている人を多く見かける。テレビでは大多数の国民にとってどうでもいいようなことがトップニュースに来たり、ことさらセンセーショナルに伝えられたりする傾向を感じていたが、先日ゴルフをご一緒した大手広告代理店の人によると、どこも数字を稼ぐのに必死なのだそうだ。インターネットの台頭に押されて苦戦しているというが、情報の発信者の“信頼度”が強みであるはずのオールドメディアがこのようなことでは自滅行為のようにも思える。

一国の政権をも転覆させてしまうインターネット、そしてソーシャルメディアの普及。情報の正確さや質を担保するメカニズムがないためリスクも伴うだろうが、情報操作によって国を統治してきた独裁政権にとって大きな脅威であることは間違いないだろう。

2011年2月20日日曜日

スーパータワー


先月発表されたNECとレノボの国内パソコン事業における合弁のニュースを驚きをもって聞いた。かつて日本のパソコン市場といえばNECの独壇場で、当時はこんな日が来るとは誰も想像だにしなかったのではないだろうか。

6年ほど前、レノボがIBMのパソコン事業を買収した直後に仕事でお会いしたNECのパソコン事業を担当する部長から、国内の市場がほかのパソコンメーカーの“草刈り場”になっているという話を聞いた。IBMの顧客がそのままレノボに移ることなどなく、他のメーカーに乗り換えるというのがその理由だった。当時はそんな発言が出るほど中国系のメーカーのステータスは低かったわけだが、あれから6年で立場が逆転してしまったようだ。

思えばNECさんには投資銀行時代にずいぶんとお世話になった。私が在籍していた2年足らずの間に戦略的保有株の売却やM&Aのアドバイザリー業務、子会社の上場などの仕事を頂き、当時の社長のお供で海外での投資家まわりもやらせて頂いた。ほかの電機メーカーに比べて財務状況は決してよくなかったにもかかわらず金払いがよく、こちらが心配になったくらいだったが、後に財務状況が盤石だった別の電機メーカーの担当者から「うちは渋ちんだからお金が貯まるんだよ。」といわれて納得した。思えばNECさんは人のいい人が多かった。

昨年の暮れに久しぶりに三田にある同社の本社に行く機会があった。10年前に地上43階の通称“スーパータワー”を初めて訪れたときにはその巨大な吹き抜けに度肝を抜かれるとともにメーカーは本社ビルにお金をかけ始めると経営が傾くという話を思い出した。すでに築10年を経ていた当時、経営状況は決して芳しくなく、我々が商売を頂けたのも資金繰りのニーズがあったからといえる。当時の財務室長さんに「立派な本社ビルですね。」というと「証券化して売却したからもううちのものではないんですよ。」といわれたことを思い出す。

同社の売上を調べてみると2008年の4.6兆円から2010年は3.6兆円まで落ち込んでいた。半導体子会社を非連結化(会計上企業グループから外す)したことが要因のようだが、海外事業の撤退を含むパソコン事業の縮小も影響しているものと思われる。半導体事業もパソコン事業も自発的にやめたというよりは競争力を失って撤退を余儀なくされた感じだが、お世話になった方々の顔を思い出すと、同社が新たな活路を見出して復活を遂げることを願わずにはいられない。

2011年2月13日日曜日

美肌

久しぶりに会った同い年の女友達。長信銀最大手で総合職女性初の社費留学生となり、将来を嘱望されていたが、その後外資系投資銀行を経て今は新興の金融企業の幹部となっている。

3年ほど前に会ったときには彼女の会社のファンドでゴルフ場の買収をしていて物件を探すのに忙しいといっていたが、今は破たんした大手消費者金融から買い取った債権の回収と最近買収した美容クリニックの経営指導に忙しいとのこと。彼女のツイッターには何たら注射をうっただのとその美容クリニックを自ら利用していることが書かれており、共通の知人からは彼女の顔が変わったと聞いたので、どのようなことになっているのだろうかと思った。

実際に会った彼女は顔が変わったというよりは肌が輝くように白く、しわが一つもなかった。何たら注射のおかげだろうか。私の同世代といえばどんな美形だった子も顔に疲れが出始めているが、金で肌の若さが買えるのだからすごい時代になったものだ。

ゴルフを始めてから顔のシミが目立つようになった私は思わずそれを取ることができるのか聞いてしまった。答えはイエスでひとつ2万円とのことだった。足裏マッサージ何回分だろうなどと口走ったら、以前は10万円単位のお金がかかり、価格競争でそこまで落ちたのだといわれた。シミ取りにそんな大金をはたくなど、女性の美に対する執念には恐れ入る。

シミ取りはシミになった細胞に光を当てて死滅させ、再生を促すので若返りにいいといわれたが、一つ当たり2万円だと今の私の状態でいったいいくらかかるのだろうか。金で若い肌が買えるのは経済力のある人のみができる贅沢で、そのような意味で彼女は“勝ち組”なのかも知れない。

2011年2月5日土曜日

エジプト騒乱

3月に久しぶりのエジプト行きを計画していた矢先の騒乱。同国が実質的には独裁制で選挙の不正や汚職が横行していることは認識していたが、近隣のチュニジアの政変でいっきょに火がつくほど人々の不満が鬱積していたとは…。

旧東ドイツを崩壊させたのは西側から入って来る衛星放送だったといわれているが、カイロの家庭ではなぜか欧米や中東の衛星放送がただで見られ、独裁政権が情報を操作するのが難しい。加えてインターネットや携帯端末を使った通信の普及で情報の広がりもそのスピードも飛躍的に高まったと見える。

テレビでは連日、何度となく足を運んだカイロ中心部のタハリール広場の光景が映し出され、心配になってエジプトの知人の携帯に電話をかけたところ背後が妙に騒がしい。聞けば何と還暦を過ぎた氏がデモに参加していたのだ。ムバラク嫌いであることは知っていたが、抗議活動は若い者に任せればいいのに…。

日本の報道では政権の腐敗が国民の不満の原因とされているが、実際にエジプトの人々と接した感じからすると、そのこともさることながら、同じアラブ人であるパレスチナ人を迫害するイスラエルとそれに加担するアメリカ、さらにそのアメリカから支援を得ている現政権への怒りが根底にあるように感じる。シナイ半島の港にはヨルダン行きのフェリーに乗る貨物トラックが長い行列をなしている。陸路でイスラエルを通るのを避けるためにそこまでやるところにエジプトの人々の本音がうかがえる。

かつては自らのいいなりになりさえすればもっとも腐敗し、国民に嫌われている政権でさえも支援していたアメリカも、キューバやベトナムでドツボにはまった教訓からか、今回は早々にムバラク切り捨てを決断したのが興味深い。エジプトが本当の意味で民主化され、政権が民意を反映するものになると札束でほっぺたをひっぱたくことも容易ではなくなり、これまでのアメリカのやり方は通用しづらくなるが、政権移譲が不可避となれば、来るべき新政権との関係を考えて行動するのはきわめて妥当に思われる。

3月のエジプト訪問は実現しそうもないが、同国の民主化が平和裏に達成され、アラブ世界全体にプラスの効果をもたらすことを願いたい。