2009年3月1日日曜日

脱税指南

先週末の移動の飛行機で読んだ新聞はいずれも7年前まで勤めていたUBSがアメリカの富裕層に対して行っていた脱税ほう助に関するニュースが一面だった。何でも同行が米当局の求めに応じて脱税の疑いのある米国人顧客の情報を提出するというもので、すでに250人分を提出済みでさらに52,000人分の情報も提出される可能性があるという。UBSの手口は顧客の資産を新たに作った代理人あるいはペーパーカンパニー名義の口座に移し、資産の帰属先をわからなくすることで課税を回避するというもので、同行は数千人の顧客の脱税を助けたことを認めて7.8億ドルの罰金を支払うことにすでに同意しているという。

私がUBS傘下の証券会社に転職した2000年に同行はアメリカに富裕層の顧客を多く抱えるペインウェバーという証券会社を買収した。そのわずか8年後に今日のような大規模な脱税ほう助が明るみに出る事態に至ったということは、買収の隠れた目的にスイスの銀行の“守秘義務”を隠れ蓑にしたこうしたブラック・ビジネスの企みがあったのではないかと疑ってしまう。ファイナンシャルタイムズ紙の記事にはスイスの銀行家たちがこうした守秘義務によって圧政に苦しむ人たちが救われ、ときには全体主義と闘うのに役立ったと主張していると書かれていたのを読んで2001年にUBSの米国法人で行われた内輪の会議で誇り高きペインウェバーの社員がUBSを称して「世界の独裁者や麻薬王のお金を運用している銀行」と述べていたことを思い出した。どちらが実態に近いかは言わずもがなだ。ちなみに私は投資銀行部門で法人向けの営業を担当していたので(自分がやっていたことがほめられたことかは別にして)、こうしたビジネスには手を染めていない。

それはさておき、今回の一件で改めて驚かされるのはアメリカの富裕層のあくなき強欲さである。一生かけても使い切れないお金をもってもなお脱税によってさらに蓄財しようとするのだからすさまじい。もはや金儲け自体が人生の目的になってしまっているようだ。時を同じくして日本では竹中平蔵元総務相が市場競争の末に富が一部に集中しても、そのおこぼれを貧困層も享受できるとする「トリクルダウン効果」を主張していたことについて、与謝野馨財務相が「人間の社会はそんな簡単なモデルで律せられない」と一蹴したと報じられたが、富裕層の行動パターンを見る限りトリクルダウンはあっても限定的で、社会全体に広く薄く富を分配した方が経済効果は高いように思われる。今滞在している南米は貧富の差が特に激しい地域だが、ブラジルのような経済成長著しい新興国でもトリクルダウンが貧困層に行き渡っているようにはとても思えない。