2011年11月26日土曜日

地震研究

政府の地震調査委員会が東日本の太平洋沖を震源とする地震の発生確率を公表したという。三陸沖北部から房総沖の日本海溝付近で起こる地震の発生確率について、マグニチュード8以上の規模が今後30年以内で30%とする内容で、東日本大震災に匹敵する大津波が生じる可能性もあるという内容。実に懲りない人たちである。

東京で育った私は小学生の頃から東海沖地震が来るということをさんざんいわれ、学校では防災訓練なるものをしていた。三陸沖だとか房総沖だとかいったことは一言もいわれず、正にノーマークだった。ところがいざ震災が起きてみると、何と明治に入ってから三陸沖で大地震があり、大津波も押し寄せていたというではないか。また、先人達が全国各地に津波が到達した地点を記す石碑などを残しているという。こうした基本的なことを調べずして地震学者たちはいったい何をしていたのだろう。

日本の地震学者たちが東海沖一辺倒ではなく、三陸沖で起こりうる大地震と大津波についてきちんと予想し、注意を喚起していたなら、東京に住む我々が子どもの頃からやっていたような防災訓練を三陸の沿岸に住む人たちもやっていて多くの命が救われたのではないかと思う。また、沿岸のあのような低い土地に原発を建てることもなく、今回の惨事は防げたのではないだろうか。

震災が起きた途端に同じ海域で再び大地震が起きる確率について語るのも専門家としての見識を感じさせないが、南北800キロに及ぶ海域で今後30年以内に起きる可能性が30%あるといわれてもどう解釈していいのかわからない。もっとピンポイントで、かつ高い確率で予想してもらえるならまだいいが、それができないならこのような発表を行う意味が見出せない。

以前このブログでアメリカのワシントン州から震災の被災地の視察に来た建築技術者の一行が同州の地層から300年前に大地震があったことをつきとめていると述べていたことを書いたが、それに比べて地震大国日本の地震学者たちのお粗末さには閉口する。国費を使いながら国民の役に立つ結果が出せないのであれば研究自体をやめるか体制を変えるべきではないだろうか。

2011年11月16日水曜日

TPP

ここのところプライベートでも仕事の場でも話題にのぼるTPP。私の周りには日本の関税・非関税障壁の恩恵を受けている人はいないので反対派は見かけない。私も賛成か反対かと聞かれれば、交渉参加への道筋をつけることに反対する理由は見当たらない。選択肢をもっておくのは悪いことではないし、反対派の人たちの多くがある意味で既得権をもった人たちであるためあまり共感できないのだ。

数年前、当時虎の門にあった新規就農相談センターなるところに行ってみた。メーカーに勤めた後、投資銀行に転職した私はいわゆる第二次と第三次産業は経験したので、残りの人生で第一次産業を経験すれば全産業制覇である。しかしこのような相談所を開設しているわりには本当に農業を非農業従事者に開放する気があるのか疑問に思われた。というのも新規で農業をやるには地元の農業委員会の許可を得てまとまった農地を買い、フルタイムで就業しなければならない。兼業農家は多いはずなのに新規参入者にはそれを許さないというわけだ。それでいて農業で十分な現金収入をあげるのは難しいなどという。また、農業をやっている親戚筋に聞いてみたが、やはり農業委員会の許可などおりないという。つまりたとえ後継者がいなくて農地が競売に出ていても新規参入には高いハードルを課すというわけだ。これまで長年にわたって保護されてきた間に多少なりとも輸入品に対抗する準備をしてきたのかも甚だ疑問で、それがTPPの議論が出てきた途端、食の安全だのと消費者のためを思っているかのようにいわれても説得力を感じない。

そんな折、長年アメリカの通商代表部で対日・対中の交渉にあたり、今は西海岸で隠居生活を送っている人物が東部の名門ダートマス大学で教鞭をとっていたときの教え子を連れて事務所にやってきた。米国の通商代表部というとかなり強硬なイメージがあり、あまり好印象を抱いていなかったが、この人物は1960年代に日本に住んでいた経験があり、実は親日家であることを知った。面談の目的は私の会社が委託業務としてやっている米国企業の日本への輸出の支援(売り先開拓など)で協力できないかというものだったが、日本の業界の多くは監督官庁とタイアップして様々な合理性が感じられない参入障壁を築いている(たとえば薬事法で石鹸の輸入を厳しく規制しているが、最近の「茶のしずく」問題からも国民の健康を守ることが目的でないことは明らか)ので、多くの業界にとって日本は輸出先として労多くして実りが少ない国といわざるをえない。

経済界はTPP加盟に向けての交渉参加を歓迎しているようだが、関税が下がったくらいで日本のメーカーの競争力が飛躍的に高まるかといえば実はそれも疑問だ。早くから海外に進出し、規制にも守られてこなかった電機業界でさえ、大手企業の収益性や株価が下落傾向を続ける一方で韓国の大手は逆に株価が上昇を続けている。TPPに参加することで多少競争力が増すかも知れないが、状況がドラスティックに改善するとは思えない。

日本が戦後急速な経済成長を遂げたのは日本人が勤勉で優秀だったからと思いたいところだが、実際には中国や韓国が共産主義化や内戦などで同じスタートラインに立てる状況になかったことも大きな要因だっただろう。本当の意味で日本の競争力が試されるのはまだこれからであり、TPPという枠組みが最適かは別として、市場を閉鎖することで競争力が高まることがないのは確かだろう。

2011年11月13日日曜日

ポルチーニ


初めてポルチーニなるものを口にしてから何年が経っただろう。忘れもしない、メーカー時代にフランスの工場の売却交渉でイタリア北部にあるオリベッティの旧子会社を訪問したときのことだった。幹部との面談を終え、昼食に招かれたのだが、メニューのイタリア語がわからず、ホストに勧められるままに注文したのがこのとき旬だったポルチーニのスパゲッティだった。きのこ類と聞いてあまり期待しなかったが、食べてみてそのおいしさに感動した。

それからというもの、日本のイタリア料理屋でメニューにポルチーニと名のつく料理を見つけると必ず注文するようになったが、缶詰入りのものを使っているせいかイタリアで食べたポルチーニとは味も食感も香りも似て非なるもので、満足感が得られなかった。それから10年余りがたったある日、資産家の友人に横浜の馬車道近くにあるレストランに誘われた。そこは何とイタリアから空輸された生のポルチーニを使った料理を出していて、ポルチーニスパゲッティのほか、ポルチーニのピザなども堪能した。しかもこうした高級食材をふんだんに入れてくれるところがいい。

私がB級グルメ漬けであることを見抜かれてか、この友人と食事に行くときには決まって彼女が場所を選んでいたのだが、銀座の和食屋も六本木の中国料理屋も西麻布のフォンデュー屋も二の橋のイタリア料理屋も大変美味ながら私の一週間分の食費くらいの支出となった。このときもどれくらいとられるのかと思いきや、耳を疑うほどリーズナブルだった。店が良心的だからなのか、場所が横浜だからなのか。

東京にある一流店を知り尽くしている友人がわざわざ横浜まで足を運ぶのだから、東京には同等レベルのポルチーニ料理を出す店はないということだろう。このとき毎年ポルチーニが旬の時期にここに来ようと心に決めたが、一年に一度来ようなどということは一年も経たずして忘れてしまうものらしく、今年になってようやく思い出し、友人を誘って何年かぶりで訪れた。ポルチーニの時期も終わりにさしかかっていたのでまさにぎりぎりセーフ。

中華街に行くわけでもない限り、東京の友人を誘ってわざわざ横浜まで食事をしに行こうという話にはならないが、このレストランに限っては時間をかけて出かけて行く価値が十分にあると思う。このままでは来年もまた忘れてしまいそうなので、さっそくカレンダーに書き込んだ。

2011年11月5日土曜日

永平寺

零細サービス業者としてはついつい顧客層の多角化を図ることで経営を安定させようという発想になってしまう。このため紹介のあった案件についてはよほど採算に合わない場合は別として基本的に断らないようにしている。

最近提携先から紹介のあった福井の地元メディアから来年永平寺でスティーブ・ジョブズ氏の一周忌をやるのを手伝ってほしいといわれた。何でもジョブズ氏が禅に傾倒して一時は永平寺に出家することまで考えていたので、故人の思いを叶えるために考えついたという。そして副住職からは、寺側が持ちかけることはしないものの、遺族の依頼があればやってもいいとの感触を得ているとのこと。

はじめに依頼されたのは提案書づくり。しかも内容に関して何らインプットがなく、提示された報酬もあまりに少ない。そこでそのような金額では翻訳料にしかならないということと提案書のような商業主義的なものを出しては遺族の心証を害する恐れがあるということを伝えた。すると今度は遺族宛のレターを用意してほしいといわれ、報酬も引き上げられた。

提携先との関係もあるのでお引き受けしたが、思えば永平寺というのは我が家の宗派である曹洞宗の総本山。永平寺から直接依頼があればお布施代わりに無償でお引き受けしたのに。その見返り?にこれまでの人生で犯したすべての過ちを許してはもらえないだろうか…などとくだらない考えが頭をよぎった。

本件は商売的にどうだったかは別として、うちが曹洞宗であることを改めて思い起こすきっかけにはなった。それにしてもなぜご先祖は曹洞宗などというストイックな宗派を選んだのだろうか。私自身は南無阿弥陀仏と唱えれば極楽に行かれるような宗派の方が合っているような気がする。