2011年4月23日土曜日

日本郵便

公益企業でもう一ネタ。2011年度も1000億円の赤字を見込んでいるという日本郵便。同社の苦戦は官から民へのシフトがいかに難しいかを物語っているように思う。

私の会社では海外向けの郵便物は日本郵便のEMSを利用することが多い。他社に比べて料金が安いというのがその理由で、それでいて荷物が紛失したり届くまでに余計に時間がかかったりすることもなく、他社同様にネットで配送状況をトラッキングすることもできる。また、各国の郵便局網を使っているので中東などに物を送るときには特に格安でスムーズ。しかしこうした低料金もまた同社の赤字の要因なのだろう

配送上のトラブルがない一方で驚くようなことも起こる。たとえば集荷。ほかの業者だとよほどのことがないと時間のコミットをしないが、日本郵便の場合、電話で集荷を依頼するとオペレーターがマニュアル通りに2時間以内に集荷に来るという。しかし電話を切って程なくして管轄の支店から2時間以内は無理との訂正が入る。しかも毎回だ。サービスの速さを強調したいのだろうが、守れないのだから逆効果だ。しかも一回一回支店に訂正させるのは時間の無駄。

それから社名や住所、電話番号の伝票への印刷。依頼してもなかなか届かないのでリマインドの電話を入れたところ、すぐに5年あっても使いきれないくらいの膨大な量が届けられた。ほかの業者だと有料の厚紙でできた書類入れや紙袋も頼めばいくらでもくれる。どこにいくつ出したかという記録をとっている様子もないので、うちのような誠実な?顧客でなければ必要以上にもらってほかの目的に使うかもしれない。

投資銀行から政府系の仕事に移った経験からすると民から官へのシフトというのは比較的容易だが、その逆は難しいようだ。何せ規制に守られてコストを意識しなくてもよい世界から急に競争にさらされ、売上と利益をあげるために努力をしなければならない世界に放り込まれるわけだ。日本郵便は赤字の削減のためにさらに人件費を抑制するそうだが、集荷が今以上に遅れたり、頼んだことを忘れたりということがないよう願いたい。

2011年4月16日土曜日

公益企業

都心に事務所を移してちょっと浮かれていたが、それは非常時に帰宅困難者となりうることだと今回の震災で思い知らされた。揺れが収まってしばらくすると同じビルで働く私より一回り上の同業者がやって来て、荻窪の自宅まで歩いて帰るという。距離にして20キロくらいだろうか。私は人ごみの中を歩くのが嫌いで、途中で何かあってもいやなので事務所に泊まる覚悟でいたが、驚くことにその日のうちに地下鉄の運転が再開され、家路につくことができた。

鉄道会社というのは走っている地域ですみ分けができているので基本的に地域独占だが、そうした中でも顧客サービスの面で大きな違いがあるのが興味深い。私が利用する路線の中では東京メトロと京王電鉄はきわめて優秀で、今回の震災でもいち早く復旧した。早々に当日の運転をすべて取りやめると発表したJRとはエラい違い。JRは路線が長いからという人もいるが、中央線の東京・新宿間と山手線の池袋・渋谷間、及び上野・品川間だけでも復旧させていれば助かった人がおおぜいいただろう。

同じ運輸系の公益企業でいえば成田空港はまったくもっていただけない。羽田の再国際化で部分的な競争が始まったとはいえ、国際線の数ではおおよそ比較にならず、国内線を増やすことで地方から海外に行く人たちの取り込みもできるはず。ところが空港の施設使用料を引き上げて利用客の負担を増やす一方で意味のないテレビCMにお金をかけている。大多数の人々は必要があって成田を利用するわけであってCMを見て利用しようなどと思う人はいないだろう。

鉄道会社や空港以上に競争がない電力業界。福島第一原発での事故の報にふれ、真っ先に思い出したのが10年近く前に発覚した東京電力のトラブル隠し事件。原子炉のひび割れなどの検査結果を隠していたわけだが、福島第一原発もその一つだった。想定以上の津波が来たとはいえ、同規模の津波に見舞われた東北電力の女川原発は同様のトラブルが起きていないことから、今回の事故がこうした企業体質に起因する部分があったのではないかと疑う。少なくとも事故後の状況についてあまりに把握できていないことには驚く。

競争のない世界ではとかく独占状況にあぐらをかいてしまい、自らを律し、よいサービスを提供しようという動機づけが薄まるものかもしれないが、公益企業の場合、一般企業のように淘汰されることがないから厄介だ。特に我々がライフラインの一つを依存している企業が顧客や周辺住民といったステークホルダーの視点を欠き、危険なものを扱っている事業者としての自覚と規律が働いていないとすれば実に不幸なことと思う。

2011年4月10日日曜日

情報統制


出張の最後に立ち寄った北京。紫禁城も万里の長城も現地のパートナーが連夜連れて行ってくれた本格的な中国料理もどれもよかったが、ホテルでブログをアップしようとして、何度やってもつながらないことに気づいた。

中国政府に問題視されるようなことを書いただろうか、いや私のブログなど問題視されるほど影響力はないはず、などとあれこれと考えていたところ、グーグルが中国を撤退していたことを思い出した。色々と試してみると検索のページやGmailはふつうに使えるのだが、同社が提供しているブログのサービスやYou Tubeはつながらなかった。知人からFacebookのメッセージが届いていたのだがこれも開けない。やはり中東の民主化デモに使われたツールだから当局が警戒しているのだろうか。

こうして前回のブログのアップが日本に帰国するまで数日遅れてしまったわけだが、同国に行ってはじめて報道でしか知ることのなかった情報統制を自ら体験することとなった。以前のブログに中東の民主化の波が中国にも波及するだろうかと書いたが、中国のパートナーいわく、それはまずないとのこと。そもそも長年情報統制下で暮らしてきた中国国民の多くは民主主義の何たるかを知らないし、むしろヒトラーのような人物が登場したら暮らし向きがよくない大多数の国民の不満のはけ口が他国へ向けられる可能性さえあるとのこと。

彼によると日本での震災後の中国国内のブログはその半数がざまあ見ろ的な内容だという。親日的な彼でさえ、「他国に攻め入ったり支配するのはいいけど一般の人たちを殺しだしたらすべてが正当性を失う。」といった。そういう彼のおじさんも日本軍の犠牲になったそうだ。北京に来ると中国のスケールの大きさを感じる。そしてとにかく人が多い。こんな国にけんかをふっかけられたらたまったものではない。

一党独裁を布いている中国の現政権が第二の天安門事件を起こさないためには国民感情に無頓着でいられるとは思えず、従って親日的な姿勢は取りづらいだろうし日本にとって都合のよい情報を積極的に流すとは考えづらい。こうした現実を踏まえてどうやってこの国と付き合っていけばいいのか。そして日本の為政者にこうした難しいかじ取りができるだろうか・・・。

2011年4月2日土曜日

自粛ムード

出張に出てから2週間、日本ではさまざまなイベントが中止やキャンセルになり、自粛ムードが高まっている様子。しかし何もかも自粛することが本当にいいのだろうかと思う。

東日本で働いている者としては震災後しばらく積極的に営業活動をする気にはならなかった。相手先の企業やそこで働く人たちが震災の影響を受けたり身内が被災しているとも限らないので、何事もなかったかのように面談を申し入れたり商談をもちかけることがはばかられた。海外の取引先からの心配の声に、出張などしている場合なのだろうかと考えたほどだ。

しかし私が事業活動を控えることは被災者にとって何のプラスにもならない。むしろ商売を続けて収益をあげ、国庫に少しでも貢献することの方が大事と考え直した。特に我が零細企業の場合、海外のお客様からの収入が多いので、ビジネスを続けてこそ日本経済にわずかばかりの貢献ができる。

BBCの報道の影響か、イギリスでは会う人会う人に日本が沈没したかのような勢いで大丈夫だったかと聞かれた。東日本以外は大きな影響を受けていないことをわかっていないようだ。また、「日本のお茶はお土産に持って行くと喜ばれたけど、もうだめだね。」などと国全体が放射能に汚染されているかのような言葉も聞かれた。

被災者のことを思い、イベント等を中止するのは間違ったことではないと思うが、国策として振興しようとしていた農産物の輸出や観光が大打撃を受けかねない中、行きすぎた自粛はかえってマイナスな気がする。特に国際会議やスポーツの国際大会などは日本が安全であることをアピールする絶好の機会であり、予定通りにやるべきではないかと思う。