2012年9月29日土曜日

デフレの正体

先日『デフレの正体』の著者、藻谷浩介氏の講演を聞く機会があった。あまりテレビに登場しない氏だが、全国各地で行う講演の合間に時間ができたときのみ出演依頼に応じるのだという。また、KK女史を引き合いに、ベストセラーを出すとすぐに本を乱発して荒稼ぎしようとするのは自分の目指すところではないとチクリ。円高が日本経済の低迷の原因という大多数の経済評論家に対し、円高こそ日本経済の強さの表れとする氏の考えは確かに異端に映るかもしれないが、「競争力のない企業を救うことが政府の目的ではない。社員に人権はあるが、企業にはない。」というのはその通りで、マスコミが根拠となる数字もあげずに危機感ばかりあおっているというのも同感だ。新型インフルエンザの死亡率が従来型に比べて高いという証拠もないのに大騒ぎをしてみたり、日本の経常収支の数字も見ずにただでさえ心配性な日本人をさらに心配にさせるような悲観的な報道ばかり流したり。講演の数日後に低所得世帯と生活保護受給者の数が過去最高を記録した一方で、高所得者の数も増えているという報道を聞き、経常黒字の国がこれほど低迷感を感じているのは前述の報道が生み出すムードと富の再分配の問題があるのではないかと思った。

2012年9月22日土曜日

日本の外交力

「予想以上の反発だった。」中国の反日デモを受けた総理の発言に、この国の外交は大丈夫だろうかと思った。東京都に勝手にやらせておけばいいものを、それを国の行為にしてしまうことで必要以上の反発を招き、実効支配の強化を逆に難しくすることくらい素人の私でも想像がつく。北京の友人は中国にとって尖閣はフィリピンやインドとの領土問題に比べてマイナーな話だったのが、日本政府が歴史的に見ても敏感なタイミングで関与してきたために、中国人は侮辱されたと感じ、現状に不満をもち、何かあれば騒ぎを起こしたい若者たちに火をつけてしまったのだと説明した。情報の収集力も分析力もない外交官たちであれば、国内外で泥臭い仕事に携わり、日本人に足りない強かさと国際感覚を備えた商社マンと入れ替えれば、日本の外交力はどれほど高まるだろうかと思う。

2012年9月15日土曜日

直方

今週は商用で福岡県の直方に行った。思えば筑豊に足を踏み入れるのは大学時代に福岡の友人が連れて行ってくれて以来で、それまで小説の世界でしかなかったぼた山や炭鉱労働者の住宅(炭住)を見て大いに興奮を覚えたのを思い出す。そして炭鉱のイメージしかないこの地を仕事で訪れることになろうとは当時は想像もしなかった。しかし今回は炭住の一つも目にすることはなく、すべて取り壊して新しい公営住宅にしてしまったのだと聞いた。郊外型の大きなショッピングモールができ、駅前が閑散としているあたりはどこの地方都市とも同じ風景。古いものを残そうという意識がないのだとタクシーの運転手さんがいったが、かつて日本の経済発展を支えた歴史ある町がふつうの町になってしまったのは実にもったいない気がした。

2012年9月8日土曜日

西の小京都

抹茶とともにふるまわれる見た目も味も洗練された松江の和菓子。寺町にある老舗のお茶屋に案内してくださった当地のお茶の先生に松江でこのような美味しい生菓子を頂けるとは知らなかったというと、「松江は西の小京都ですから」といわれた。「西の小京都って津和野じゃなかったでしたっけ」などとつい余計なことをいってしまったところ、「いえ、松江です」ときっぱり。関東ではなかなかお目にかかれない京都レベルの和菓子はまさに小京都と呼ぶにふさわしいが、西の小京都が本当に松江のことなのか気になってネットで調べてみたところ、確かに松江は津和野と倉吉と並んで山陰の小京都と呼ばれ、西の小京都というとこれに尾道や山口が加わるとのことだった。地元荻窪の酒まんじゅうは大好物だが、食事でいえばB級グルメといわざるを得ない。近くに小京都と呼ばれる町があればもっと身近に生菓子を楽しめただろうが、北前船も通らず、戦略的に京都と距離を置いていた江戸では仕方がないことか。

2012年9月1日土曜日

参入障壁

「利益を必要最小限に抑えた価格で商品を提供することが参入障壁を築くことになる」商用で訪れた山口の会社の経営者がいった。設備産業なのでもともと人件費の比率は高くないのだが、イギリスに工場をもち、中国製品と競合する中でシェア1位を維持している。先日鳥取にある炉端焼きのチェーン店で元上司と一献傾けた。この店は安来発祥でその後山陰一体と東京にチェーン展開しているのだが、何年か前に同じ元上司に新宿店に連れて行ってもらった(といってもいつも割り勘だが…)ときと変わらないコストパフォーマンスの高さで、この日訪れた鳥取店も予約がいっぱいの盛況ぶりだった。特に山陰ならではのお造りのクオリティの高さとボリュームが際立っていて、チェーン展開してもクオリティが落ちないところに感心するが、メニューを見ると刺身の内容は書かれていない。つまりその日に入るいちばんいいネタを盛り合わせているようだ。飲食店は粗利率が高いので、固定費を埋めた後はほぼ丸儲けと元上司がいったが、ほとんどお腹いっぱいの二次会客用の割安プランも用意しているこの店を見ていると、いいものを安く提供することで目いっぱい稼働率を高めて十分ペイするような好循環が垣間見える。利益を低く抑えて参入障壁を高めるという発想は株主利益の最大化ばかりを論じるアメリカのビジネススクールでは教わらないことだが、なるほどと思える。