2009年12月25日金曜日

マラリア

香港からヨハネスブルグに向かう飛行機の中、60歳代と思しき南アフリカ人の紳士(白人)と隣り合わせた。話をするうちに、私の留学時代の唯一人の南アフリカ人クラスメートと同じ町の出身で知り合いであると知ってその偶然に驚いた。そのクラスメートは卒業後にバミューダに居を移して投資ファンドをやっていると聞いていたが、その会社は彼の父親が立ち上げたもので、南アフリカではテレビCMをうつなど、知らない人がいないほど有名であることを知った。

これからどこに行くのかと聞かれてジンバブエと答えると、氏が南アフリカでアメリカの大手アパレルメーカーのフランチャイズを展開していて、ジンバブエには工場をもっていたという。政情不安になる前にアメリカの企業に売り抜け、今は彼が経営していたときからいる現地の経営陣がアメリカの企業から工場を買い取った(いわゆるマネジメント・バイアウト)とのこと。こうした話を聞くうちに、同国がムガベ大統領が統治する実質独裁国家であることに気づいた。

勉強不足にもほどがあるが、その後もっと大変なことに気づかされた。マラリアの予防はしてきたかと聞かれたのだ。当地がマリファナの感染地域だと知らず何もせずに来たが、時すでに遅し。ヨハネスブルグで乗り継いでそのままジンバブエ入りする私には今更どうすることもできない。海外旅行といえばビザをとること以外はいつも行き当たりばったりで何とかやってきたが、今度ばかりは大失敗だ。アフリカをなめてはいけない…。

現地で会った外国人観光客に予防薬を服用していないのかと驚かれて改めて事の重大性を認識した。地元の薬局に行って聞いてみたところ、薬が効くまでには飲み始めてから1週間程度かかるので、今から飲み始めても遅いというつれない返事。結局蚊に刺されないようにするしか方策がないことを知らされた。

一口に蚊に刺されないようにするといっても私の場合は容易なことではない。というのも人一倍蚊に刺されやすく、隣に座っている人がまったく刺されなくても体中を刺されることがあるほどだ。蚊だけではない。留学先の大学院の仲間とメキシコのカンクーンに行ったときにはシュノーケリング中に私だけが体中をクラゲに刺されてその晩はかゆくて眠れなかった。

マラリアの予防を怠ったためにジンバブエでの行動がかなり制約されることとなった。真夏にもかかわらず長袖長ズボンを着用し、くだんの紳士に教えてもらってヨハネスブルグの空港で買ったTabardという虫よけ薬を肌が露出している部分に塗り続け、外出から帰ったときには汗の染みた衣服をすぐに洗った。蚊が多く出てくる夕暮れどき以降は一切外出せず、ホテルの部屋にこもった。そして一晩に何度も虫よけスプレーを部屋中に吹きかけた。

蚊に刺される可能性があるアウトドアのアクティビティにも参加しなかったため、滝を見るという本来の目的以外のことはあまりやらずに終わったが、当初フライトの都合で一週間滞在することになりそうだったのを、4日間に短縮していたのが大いなる救いだった。これまで旅行はなるべく軽い荷物で済ませるためにガイドブックも買ったり買わなかったりだったが、今回ばかりは「何とかなる」では済まされないことがあることを思い知らされた。