2020年1月6日月曜日

潜伏キリシタン

いつもながら間際になって決めた正月の旅行先。東京の寒さを離れて沖縄か東南アジアに行きたい気持ちもあったが、今年は「潜伏キリシタン関連遺産」が世界文化遺産に指定されるずっと前から行きたいと思っていた五島列島にした。季節はベストとはほど遠いが、正月は仕事の電話もないので安心して離島に行くことができる。もちろん急に東京に戻らなければならないことなどほぼないので、多分に心理的な問題だ。実際に行ってみると教科書以上に学ぶことがあった。南蛮貿易で一儲けするために自ら改宗し、領民も改宗させたキリシタン大名たち。禁教になると改宗させた側があっさりキリスト教を捨て、改宗させられた側の一部が信仰を貫いて迫害を受けることとなった事実。五島の潜伏キリシタンは大村藩から移住してきたこと。いい土地は仏教徒に取られていたため、開墾が困難な土地で貧しい生活を強いられていたこと。五島出身の仏教徒の人から昔はカトリックと結婚することもありえなかったと聞いていたが、前述の事情でそもそも同じ島でも住んでいる地域が分かれていたことを知った。五島列島はカトリックの島というイメージをもちがちだが、実は大変なマイノリティで、比率が高い島でも35%ほど、人口がもっとも多い福江島では8%にしか過ぎないことも知った。琵琶湖が滋賀県の面積の6分の1しか占めていないと知ったときと同じ驚きだった。明治時代に入ってからも禁教と迫害が続いていたことも、欧米の外圧によって禁教が解かれたことも初耳だった。歌手の五輪真弓が潜伏キリシタンの末裔で、父親は久賀島という島の「五輪(ごりん)教会」でオルガンを弾いていたこと(やはり音楽の才能は遺伝するのか)、クリスチャンではないが野茂英雄の父親が潜伏キリシタンで有名な奈留島の出で島でも有名な大男であったということ、同島にある高校の校歌を作曲した松任谷由実が同校を「サプライズ」訪問した際に実は島民は皆そのことを事前に知っていたという裏話まで聞いた。世界文化遺産に指定されて認知度が高まったものの、島のカトリック教徒を取り巻く状況は檀家が減って寺の経営が厳しくなっている仏教徒と変わらず、少ない信者で神父を支えることができなくなっているため、ミサは月一回巡回で行われるようになっているそうだ。若い人が進学や就職のために島を出るのも他の宗教と変わらず、ミサに参加するのが数名という教会もあるそうで、教会が閉鎖され、過去の遺産となる日が来るのだろうか。文化的価値は人々の現実の生活とは別物なので、当然かもしれない。