2012年11月24日土曜日

モスコミュール

どちらかといえば垢抜けない大学に通っていた私は社会人になるまでカクテルなるものを口にすることがほとんどなかった。そんな私がカクテルの奥深さを知ったのは後年会員となったゴルフクラブのチーフバーテンダーの渡邉さんが作ったモスコミュールを飲むようになってからだ。1933年生まれの現役最年長バーテンダーといわれ、日本ホテルバーメンズ協会(HBA)の特別功労賞を授与された重鎮である渡邉さんがバーカウンターの中で黙々と作るカクテルは大叩きをしたとき(といってもいつものこと)の憂ささえも吹き飛ばしてくれる絶妙の味だった。渡邉さんがいない日に頼むカクテルは材料も配合も同じはずなのにまったく別物で、何が味の違いを生み出すのか不思議でならなかった。ところがここ数カ月クラブのバーカウンターで渡邉さんの姿を見かけなくなり、最近のクラブの会報でお亡くなりになったことを知った。記事を読むと渡邉さんが作るモスコミュールに魅せられたのは私だけではなかったことがわかった。世の中に人の記憶に残る仕事ができる人はそれほど多くないだろう。あと何年あのゴルフクラブに通うかわからないが、ラウンド後にバーカウンターに行く度に渡邉さんのモスコミュールの味を思い出すことだろう。