2010年5月16日日曜日

ファーストクラス

今回の海外出張で初めてファーストクラスなるものに乗った。一生に一度は経験しておきたいと思っていたが、私が自腹でそのような贅沢をすることなどまずありえない。たまったマイルを使ってのアップグレードだ。どうせ乗るなら距離の長い便を選ぼうとするあたりが我ながらセコく、そのようなことだから大きな勝負に出ることもなく、零細企業のままくすぶっているのだろう。ちなみに成長を目指さないのは「大企業に勤めた経験からその非効率さをよくわかっているため」というのが表向きの理由だ。

成田空港でチェックインと出国手続きを済ませて搭乗ゲートの近くにあるファーストクラスのラウンジに向かった。中に入ると職員の人が席に案内してくれ、飲み物のオーダーを聞かれ、ほどなくしておしぼりが運ばれて来た。このあたりは完全セルフサービスのビジネスクラスのラウンジと違う。また、当たり前だが置いている食べ物や飲み物の質も明らかにビジネスクラスラウンジの上をいっていて、そばやうどんもその場で作ってくれた。目覚めが早かったため必要以上に早く空港に着いてしまったが、こうしたところでくつろげるなら早めに来るに越したことはない。

搭乗時刻になって優先搭乗で飛行機に乗り込むと、客室乗務員さんが機内用のスリッパをそろえてくれたり着替えの寝巻を出してくれたりと早々に世話を焼いてくれ、こうした扱いに慣れている人が乗るべきクラスなのだと改めて感じた。見ればB777型機だというのにファーストクラスは8席しかない。席は奥行きも幅もエコノミークラスの倍以上で、ビジネスクラスでも横幅がもったいないと思う私にはもてあますくらいだが、“フルフラット”のベッドは長時間のフライトではありがたかった。

食事のメニューは布地のカバーのついたもので、料理は前菜からメインまでフォアグラ、キャビア、トリュフといった名前がつくメニューが並び、飲み物もワイン、芋焼酎、日本酒に至るまでビジネスクラスにはない珍しいセレクションのものが用意されていた。希少品として提供されていた日本酒が出発の前日に実家の墓参りで行ったばかりの西多摩の酒蔵で造られていることに驚いた。ここぞとばかり色々な種類のお酒を頼んでしまうところがまた我ながらセコい。でもどれも美味しい…。寝巻に着替えるために案内されたトイレは通常の2倍の広さがあった。

エコノミークラスとビジネスクラスの差は歴然としているが、ビジネスクラスとファーストクラスはそれほど違うものだろうかと思っていたが、料理や飲み物だけでなく、大きな液晶ディスプレイの画質といい、ソニーのロゴが入ったケースに入れられたヘッドフォンの音質といい、差は歴然としていた。食事のサービスが終わると客室乗務員がファイテンの寝具でベッドメイキングをし、枕元に置くための使い捨てのアロマシートまでくれた。飛行機の機内で1畳ほどのスペースを占有して横になることができるなど何たる贅沢。

到着前の朝食は飛行機の機内とは思えない身の柔らかい煮魚やおいしいご飯まで出てきて、おかげで12時間余りの長いフライトを快適に過ごすことができたが、飛行機の到着が遅れたせいで別のターミナルから出る乗り継ぎ便に乗るためにだだっ広いヒースロー空港の中をさんざん走らされ、汗だくになってしまった。優先的に飛行機をおろしてはくれるが、当然のことながらほかのクラスよりも早く到着することはできない。おかげでファーストクラスの機内で体を休めて広々としたトイレで体を拭いてきたのに台無しだった。

エコノミークラスとビジネスクラスでは4倍以上の価格差は当たり前で、ファーストクラスはそれよりもさらに高いわけだが、今回乗ってみて思ったのは私のようにふつうにエコノミークラスにも乗り、渡航先で何らぜいたくもしない人間にはたかが移動手段にそんな大金を払う気にはなれない。逆にどうせ散財?するなら10時間余りの贅沢にではなく、渡航先でもっと長い時間をかけてしたいと考えてしまう。やはり私のような人間が乗るべきクラスではないようだ。