2011年11月16日水曜日

TPP

ここのところプライベートでも仕事の場でも話題にのぼるTPP。私の周りには日本の関税・非関税障壁の恩恵を受けている人はいないので反対派は見かけない。私も賛成か反対かと聞かれれば、交渉参加への道筋をつけることに反対する理由は見当たらない。選択肢をもっておくのは悪いことではないし、反対派の人たちの多くがある意味で既得権をもった人たちであるためあまり共感できないのだ。

数年前、当時虎の門にあった新規就農相談センターなるところに行ってみた。メーカーに勤めた後、投資銀行に転職した私はいわゆる第二次と第三次産業は経験したので、残りの人生で第一次産業を経験すれば全産業制覇である。しかしこのような相談所を開設しているわりには本当に農業を非農業従事者に開放する気があるのか疑問に思われた。というのも新規で農業をやるには地元の農業委員会の許可を得てまとまった農地を買い、フルタイムで就業しなければならない。兼業農家は多いはずなのに新規参入者にはそれを許さないというわけだ。それでいて農業で十分な現金収入をあげるのは難しいなどという。また、農業をやっている親戚筋に聞いてみたが、やはり農業委員会の許可などおりないという。つまりたとえ後継者がいなくて農地が競売に出ていても新規参入には高いハードルを課すというわけだ。これまで長年にわたって保護されてきた間に多少なりとも輸入品に対抗する準備をしてきたのかも甚だ疑問で、それがTPPの議論が出てきた途端、食の安全だのと消費者のためを思っているかのようにいわれても説得力を感じない。

そんな折、長年アメリカの通商代表部で対日・対中の交渉にあたり、今は西海岸で隠居生活を送っている人物が東部の名門ダートマス大学で教鞭をとっていたときの教え子を連れて事務所にやってきた。米国の通商代表部というとかなり強硬なイメージがあり、あまり好印象を抱いていなかったが、この人物は1960年代に日本に住んでいた経験があり、実は親日家であることを知った。面談の目的は私の会社が委託業務としてやっている米国企業の日本への輸出の支援(売り先開拓など)で協力できないかというものだったが、日本の業界の多くは監督官庁とタイアップして様々な合理性が感じられない参入障壁を築いている(たとえば薬事法で石鹸の輸入を厳しく規制しているが、最近の「茶のしずく」問題からも国民の健康を守ることが目的でないことは明らか)ので、多くの業界にとって日本は輸出先として労多くして実りが少ない国といわざるをえない。

経済界はTPP加盟に向けての交渉参加を歓迎しているようだが、関税が下がったくらいで日本のメーカーの競争力が飛躍的に高まるかといえば実はそれも疑問だ。早くから海外に進出し、規制にも守られてこなかった電機業界でさえ、大手企業の収益性や株価が下落傾向を続ける一方で韓国の大手は逆に株価が上昇を続けている。TPPに参加することで多少競争力が増すかも知れないが、状況がドラスティックに改善するとは思えない。

日本が戦後急速な経済成長を遂げたのは日本人が勤勉で優秀だったからと思いたいところだが、実際には中国や韓国が共産主義化や内戦などで同じスタートラインに立てる状況になかったことも大きな要因だっただろう。本当の意味で日本の競争力が試されるのはまだこれからであり、TPPという枠組みが最適かは別として、市場を閉鎖することで競争力が高まることがないのは確かだろう。