2011年11月13日日曜日

ポルチーニ


初めてポルチーニなるものを口にしてから何年が経っただろう。忘れもしない、メーカー時代にフランスの工場の売却交渉でイタリア北部にあるオリベッティの旧子会社を訪問したときのことだった。幹部との面談を終え、昼食に招かれたのだが、メニューのイタリア語がわからず、ホストに勧められるままに注文したのがこのとき旬だったポルチーニのスパゲッティだった。きのこ類と聞いてあまり期待しなかったが、食べてみてそのおいしさに感動した。

それからというもの、日本のイタリア料理屋でメニューにポルチーニと名のつく料理を見つけると必ず注文するようになったが、缶詰入りのものを使っているせいかイタリアで食べたポルチーニとは味も食感も香りも似て非なるもので、満足感が得られなかった。それから10年余りがたったある日、資産家の友人に横浜の馬車道近くにあるレストランに誘われた。そこは何とイタリアから空輸された生のポルチーニを使った料理を出していて、ポルチーニスパゲッティのほか、ポルチーニのピザなども堪能した。しかもこうした高級食材をふんだんに入れてくれるところがいい。

私がB級グルメ漬けであることを見抜かれてか、この友人と食事に行くときには決まって彼女が場所を選んでいたのだが、銀座の和食屋も六本木の中国料理屋も西麻布のフォンデュー屋も二の橋のイタリア料理屋も大変美味ながら私の一週間分の食費くらいの支出となった。このときもどれくらいとられるのかと思いきや、耳を疑うほどリーズナブルだった。店が良心的だからなのか、場所が横浜だからなのか。

東京にある一流店を知り尽くしている友人がわざわざ横浜まで足を運ぶのだから、東京には同等レベルのポルチーニ料理を出す店はないということだろう。このとき毎年ポルチーニが旬の時期にここに来ようと心に決めたが、一年に一度来ようなどということは一年も経たずして忘れてしまうものらしく、今年になってようやく思い出し、友人を誘って何年かぶりで訪れた。ポルチーニの時期も終わりにさしかかっていたのでまさにぎりぎりセーフ。

中華街に行くわけでもない限り、東京の友人を誘ってわざわざ横浜まで食事をしに行こうという話にはならないが、このレストランに限っては時間をかけて出かけて行く価値が十分にあると思う。このままでは来年もまた忘れてしまいそうなので、さっそくカレンダーに書き込んだ。