2011年4月16日土曜日

公益企業

都心に事務所を移してちょっと浮かれていたが、それは非常時に帰宅困難者となりうることだと今回の震災で思い知らされた。揺れが収まってしばらくすると同じビルで働く私より一回り上の同業者がやって来て、荻窪の自宅まで歩いて帰るという。距離にして20キロくらいだろうか。私は人ごみの中を歩くのが嫌いで、途中で何かあってもいやなので事務所に泊まる覚悟でいたが、驚くことにその日のうちに地下鉄の運転が再開され、家路につくことができた。

鉄道会社というのは走っている地域ですみ分けができているので基本的に地域独占だが、そうした中でも顧客サービスの面で大きな違いがあるのが興味深い。私が利用する路線の中では東京メトロと京王電鉄はきわめて優秀で、今回の震災でもいち早く復旧した。早々に当日の運転をすべて取りやめると発表したJRとはエラい違い。JRは路線が長いからという人もいるが、中央線の東京・新宿間と山手線の池袋・渋谷間、及び上野・品川間だけでも復旧させていれば助かった人がおおぜいいただろう。

同じ運輸系の公益企業でいえば成田空港はまったくもっていただけない。羽田の再国際化で部分的な競争が始まったとはいえ、国際線の数ではおおよそ比較にならず、国内線を増やすことで地方から海外に行く人たちの取り込みもできるはず。ところが空港の施設使用料を引き上げて利用客の負担を増やす一方で意味のないテレビCMにお金をかけている。大多数の人々は必要があって成田を利用するわけであってCMを見て利用しようなどと思う人はいないだろう。

鉄道会社や空港以上に競争がない電力業界。福島第一原発での事故の報にふれ、真っ先に思い出したのが10年近く前に発覚した東京電力のトラブル隠し事件。原子炉のひび割れなどの検査結果を隠していたわけだが、福島第一原発もその一つだった。想定以上の津波が来たとはいえ、同規模の津波に見舞われた東北電力の女川原発は同様のトラブルが起きていないことから、今回の事故がこうした企業体質に起因する部分があったのではないかと疑う。少なくとも事故後の状況についてあまりに把握できていないことには驚く。

競争のない世界ではとかく独占状況にあぐらをかいてしまい、自らを律し、よいサービスを提供しようという動機づけが薄まるものかもしれないが、公益企業の場合、一般企業のように淘汰されることがないから厄介だ。特に我々がライフラインの一つを依存している企業が顧客や周辺住民といったステークホルダーの視点を欠き、危険なものを扱っている事業者としての自覚と規律が働いていないとすれば実に不幸なことと思う。