2011年1月16日日曜日

六本木ランチ

投資銀行時代の副会長との久しぶりの会食。古い名刺を整理していると、今は他の外資系投資銀行に移られている氏のものが出てきて、在籍中にお世話になったのでご挨拶のメールを出すことにしたが、今はまったく別世界にいることもあって書くことが思いつかず、お時間のあるときに食事でもと書いた。私のために時間を割いて頂いても何のメリットもないので、お時間はないだろうとタカをくくって書いたところもあったのだが、出張先の海外からすぐに返事が来て秘書を通じてアポをとるようにいわれた。

さて、これはどうしたものか…。ランチとはいえ私だけではとても間がもたない。苦し紛れ?に投資銀行時代の同僚に声をかけたところ、幸いにして一人付き合ってもらえることになった。どこにお招きしたらいいのかもわからず氏の秘書さんに相談したところ、ANAホテル2階の中華でいいのではないかとのことだった。元副会長は中華がお好きなのか、同じ投資銀行に在籍していたときに接待や会社訪問帰りによくご一緒したことを思い出した。

しかし実際にお会いするとこちらが何を話すか考える必要もなく、氏の方から次々に面白い話をされた。中でも印象に残ったのが4年前に話題になった米系ファンドによるブルドッグソースの“買収未遂”だ。このときブルドッグはファンド側に、ほかの株主に割り当てた新株予約権の代わりに23億円もの現金を払ったのだが、氏曰く同社の株のほとんどは持ち合いなのでそもそもあのようなことをしなくても乗っ取られる心配はなかったとのこと。氏がブルドッグに助言を求められたときにはそのように進言したのだそうだが、その後日系最大手の証券会社の入れ知恵で要らぬ買収防衛策(いわゆるポイズンピル)をやってしまったのだそうだ。儲かったのはファンドと手数料収入を稼いだその証券会社でその他の株主は大損をさせられたわけだが、そのような事態に至らしめたのが外資ではなく日系の証券会社だったというのは何とも皮肉なことだ。

私が在籍していたときに同じ投資銀行で働いていたプロフェッショナル職の人たちはもうほとんどいなくなってしまったが、当時の投資銀行部門の共同部門長がクビになり、私がいっしょに大手総合電機メーカーのM&A案件をやったことのある40代前半の若手がとってかわった。サバイバル術に定評があった前共同部門長がやめさせられたのが意外だったが、氏の話では表向きは大切な顧客の不興を買ったのが理由になっているが、実際はセクハラとのことだった。米系と違ってこうしたことには寛容で、私が在籍していたときも一般企業では考えられないさまざまなことが社内で起きていたが、どれだけのことをすればクビになるのだろうかと思った。

元副会長は東大の法学部を卒業後、大手都市銀行でキャリアを始めてその後外資畑を歩いて来られたのだが、顧客の信頼が厚いのだろう、ずいぶんと成功し、田園調布に豪邸を建てられた。一度遊びに行ったことがあるが、何とカラオケルームまでついていた。しかし黒塗りのリムジンに乗ることがステイタスのように思っている人たちが多い世界にあってふつうに電車通勤をされていた。

最近熱海に別荘を買われたと聞き、還暦を過ぎても第一線で活躍しつづける氏の姿に大いに刺激を受けたが、会食の最後に「それで何をしてあげればいいの?」と聞かれ、かつて自分も接待一つにも見返りを期待する業界にいたことを思い起こした。相手は業界の大物。何か頼みごとを考えておけばよかったか…。