2010年3月13日土曜日

引っ越し


「来月で契約が切れるので一か月分の更新料を振り込んで頂けますか。」事務所のオーナーの秘書さんからの突然の電話。“公私混同”といわれながら神谷町にあった事務所を地元に近い阿佐ヶ谷に移してからもう3年も経ったのだ…。

家賃を折半していたクライアントが不況で予算を削減せざるをえなくなり、そのあおりで私の会社の負担が増えていたところにさらに更新料を払ってまで阿佐ヶ谷にいたいという気にはならなかった。今いるビルは地元ではそれなりに名の知れたところだが、それでも所詮は杉並。周囲に初めて訪ねてくる人がわかりやすいランドマークもなければプレゼンテーション資料の製本をしてくれるKinko'sすらない。職住接近の生活は楽ではあったが、ビジネスをやる雰囲気ではない。行き先も決まらないうちにオーナーに退去の意思を伝えて次の事務所を探し始めた。

とはいえ家賃と通勤の(不)便を考えると港区あたりに戻るというのは考えられず、やはり中央線で新宿以西ということになる。ただし電話番号が03圏内でないとビジネス上不都合だし、家賃を折半していたクライアントは予算を削ってもなお、それなりのアクセスと建物の体裁を望んでいたので西荻窪は検討の対象から外れた。さらに私個人の希望として駅前ないし駅から至近の場所にしたいということがあったので自ずと候補がしぼられ、最終的に中野駅近くの有名ビルにあるサービスオフィスに移転することに決めた。

阿佐ヶ谷から中野に移転する旨を顧客に連絡したところ、「不景気な中よく…」といった反応が来た。杉並区民にとって中野区は同じ沿線ということもあって同格というか仲間のようなイメージだが、世間的には阿佐ヶ谷より中野の方が上らしい。東京人であれば誰しも知るビルだけあって坪単価は周辺の倍だが、会議室などが共同になる分、デスクのスペースを今の半分以下におさえて家賃の総額を低く抑えることができた。それでも“アップグレード”したと思われるのなら、それはそれで結構なことだ。

デスクのスペースを半分以下にしたことで4つあったデスクの2つを処分し、常勤していた3人のうち1人を在宅勤務に切り替えてもらった(彼は八王子在住なので喜んでいる様子)。今の時代メールでのやり取りが主で電話も転送できるので、私もあまり通う必要はないのではないかと思っている。サービスオフィスとうい形態は初めてだが、これでうまくまわるようだったら高い保証金や更新料を払ってふつうの事務所を借りる必要はないだろう。

ビルのオーナーの秘書さんから電話をもらってから3週間以内で引っ越しを完了した。この間に移転先探し、条件交渉、契約の取り交わし、新しい事務所に入らない家具の処分、そして引っ越しまでやってのけた。我ながら何たるスピード技。空になった事務所(写真)をながめ、一か月前には想像もしなかった展開に、一人暮らしを始めてから賃貸契約を更新することがなかった自らの引っ越し魔ぶりを思い出した。今度の事務所は更新料がかからないので少しは腰を落ちつけることができるだろうか…。