2009年2月19日木曜日

東方砂漠にて







一昨年のエジプト旅行で知り合ったオリーブ博士モハメッド・エルコホリ氏から、東方砂漠にある氏の農園の拡張に伴う植樹のお招きを受け、1年4か月ぶりに当地を訪れた。農園で1泊、カイロで前後1泊ずつの3泊4日という強行軍だったが、農作業で年齢を感じつつも充実した楽しい時間を過ごすことができた。

東方砂漠はカイロの東からスエズ運河にかけて広がる。行けども行けども果てしなく続くサハラ砂漠と違い、夜になると地平線の彼方にスエズ運河沿いの町の明かりが見え、地面を覆う砂もまったく水気を感じさせないサハラのそれとは違って“土”の感触がある。エルコホリ氏が農園を始めるまではエジプト軍の演習場として使われるほかは時折ベドウィン(砂漠の遊牧民)が通るだけの何もないところだったそうだが今では氏にならって(真似て?)近隣にもオリーブ農園が次々にできている。不毛の地で育て上げた自分の農園の姿をグーグル・アースで確認することができるのが氏の誇りである。

石油業界でエンジニアとして働いていたときに貯めたお金で土地を買い、独学で始めたオリーブ栽培だが、今では同じような気候条件の中東各地や西オーストラリアの乾燥地帯に生産指導に招かれるようになっているからたいしたものだ。ドイツで教育を受けたエンジニアということもあってか、植える木の間隔から灌漑用のパイプの張りめぐらせ方、水圧のかけ方、異なる品種の配置のし方まですべて計算されつくしていて話を聞けば聞くほど感心させられる。あるとき氏に「シンジに会うまで日本人はもっと几帳面だと思っていた」といわれて自分の大雑把さを反省した。確かに日本人とエジプト人のイメージが逆転してしまっている・・・。

植樹はもともと3月に行われる予定だったが、こちらの一方的な都合で2月に繰り上げてもらったために私が来るまでの数週間は土の掘り起こし、パイプの埋設、コンポストの準備などてんやわんやだったそうだ。大変申し訳ないことをしたと思ったが、エルコホリ氏からは私が来る日程が早まっていなかったらこれほど急ピッチで準備を終えることはできなかったので感謝しているといわれた。そういって頂けるとありがたい。

今回の拡張で新たに植える木の本数は1,200本。苗木はすべて農園で育てている。以前よそから買った苗木の根についていた病原菌が大繁殖して農園の土を入れ替えなければならない事態になったそうで、その後は自分が育てたものしか使っていないという。植樹が行われる区画には夏場の日照時間などを計算してあらかじめ一定間隔に割りばし状の杭が立てられており、川崎重工のユーティリティ車Muleに乗せてビニールハウスから運んだ苗木を工具であけた穴に一本ずつ植えていく。こうした作業をごく短い時間手伝っただけで農作業の大変さを実感できた。

オリーブは何百年も生きる寿命の長い樹木で、根っこと幹の一部さえ残っていれば枝をすべて切ってもまた伸びてくる強い生命力をもつ。エルコホリ氏のところではオリーブの木を若返らせるために区画毎に何年かおきにばっさりとやってしまうのだが、前回訪ねたときに見るも無残な姿だったオリーブの木が今回見ると見事に再生して何事もなかったかのように青々とした枝を広げているのを見て驚いた。今回私の手で植えた木々も私がいなくなってからも末長く生き続けてくれるだろうが、その成長を出来る限り見届けていきたい。