2015年11月15日日曜日

独裁経営

来日したドイツの建設機器メーカーの社長。1964年に共産主義を逃れてアメリカに渡ったブルガリア人で、米系大手の建設会社の幹部にまでなった異色の人物だ。引退後に長年赤字が続いていたドイツの老舗建機メーカーを買収して立て直し、日本のメーカーの買収にも意欲を示している。米系大手在席中から数多くの買収を行ってきたが、全て欧米の企業。日本が好きだと聞いた時には、私に対するリップサービスもあるのではないかと思ったが、実際に会って話してみると、ビジネスマンとしての合理的な発想があることを知り、納得した。彼は長年世界中をまたにかけてビジネスをやって来た経験から、様々な国の国民性をよくわかっていて、世界中でドイツ人と日本人しか持ち合わせていない資質が3つあるといった。それは規律と品質へのこだわり、そして誠実さということだった。また、いくつもの会社を立て直してきた経験から行っていることがあるという。それは会社を買収した際には、給料が高い順に7名を問答無用で解雇するとともに、誰よりも早くから出勤して製造の現場に立ち、現場、そして現場で働く人を重視する姿勢を身をもって示すというものだ。高給を取っている幹部は現場とは一番遠いところにいて、赤字を招いた責任者であるということなのだろう。中には顔を合わせることなく解雇を通知する相手もいるそうで、本人から会いたいと言われると、「あなたのことを好きになってしまうかも知れないので、それはできない。」と断るのだそうだ。遠く離れた日本の企業を買収してどうやって経営するのかと尋ねると、彼は経営を任せられる人を常に社内で見つけるのだという。確かに今や彼自身がドイツにいることは少なく、会社の経営を実質的に任されているのはまだ30代の生え抜きの社員だ。何でも彼が会社を買収した後、早くから出社して彼がやることをじっと観察していたそうだ。彼が言っていたことでもう一つ興味深かったのが、独裁者であることの重要性だった。確かに合議制の大企業は意思決定が遅く、責任の所在が曖昧になりがちなため、経営環境が変わっても対応が遅れがちだ。彼は故スティーブ・ジョブズ氏を引き合いに出して、彼は大変な嫌われ者だったが、彼の独裁なくしてアップルの成功はなかったといった。彼の実体験に根差した話は興味深く、私もかねてより独裁者が悪いとは思っていなかったが、その独裁者が彼のように判断力がある人でないと、会社はより不幸な状況になってしまうだろう。