2011年2月20日日曜日

スーパータワー


先月発表されたNECとレノボの国内パソコン事業における合弁のニュースを驚きをもって聞いた。かつて日本のパソコン市場といえばNECの独壇場で、当時はこんな日が来るとは誰も想像だにしなかったのではないだろうか。

6年ほど前、レノボがIBMのパソコン事業を買収した直後に仕事でお会いしたNECのパソコン事業を担当する部長から、国内の市場がほかのパソコンメーカーの“草刈り場”になっているという話を聞いた。IBMの顧客がそのままレノボに移ることなどなく、他のメーカーに乗り換えるというのがその理由だった。当時はそんな発言が出るほど中国系のメーカーのステータスは低かったわけだが、あれから6年で立場が逆転してしまったようだ。

思えばNECさんには投資銀行時代にずいぶんとお世話になった。私が在籍していた2年足らずの間に戦略的保有株の売却やM&Aのアドバイザリー業務、子会社の上場などの仕事を頂き、当時の社長のお供で海外での投資家まわりもやらせて頂いた。ほかの電機メーカーに比べて財務状況は決してよくなかったにもかかわらず金払いがよく、こちらが心配になったくらいだったが、後に財務状況が盤石だった別の電機メーカーの担当者から「うちは渋ちんだからお金が貯まるんだよ。」といわれて納得した。思えばNECさんは人のいい人が多かった。

昨年の暮れに久しぶりに三田にある同社の本社に行く機会があった。10年前に地上43階の通称“スーパータワー”を初めて訪れたときにはその巨大な吹き抜けに度肝を抜かれるとともにメーカーは本社ビルにお金をかけ始めると経営が傾くという話を思い出した。すでに築10年を経ていた当時、経営状況は決して芳しくなく、我々が商売を頂けたのも資金繰りのニーズがあったからといえる。当時の財務室長さんに「立派な本社ビルですね。」というと「証券化して売却したからもううちのものではないんですよ。」といわれたことを思い出す。

同社の売上を調べてみると2008年の4.6兆円から2010年は3.6兆円まで落ち込んでいた。半導体子会社を非連結化(会計上企業グループから外す)したことが要因のようだが、海外事業の撤退を含むパソコン事業の縮小も影響しているものと思われる。半導体事業もパソコン事業も自発的にやめたというよりは競争力を失って撤退を余儀なくされた感じだが、お世話になった方々の顔を思い出すと、同社が新たな活路を見出して復活を遂げることを願わずにはいられない。