2009年6月13日土曜日

ウミガメ


スリランカで印象に残った場所の一つにタートルファームがある。南部の浜辺のすぐ近くにある施設で地元のNPOが運営しているという。ここでは浜辺に産み落とされたウミガメの卵をふ化させ、生まれてきた子ガメをしばらく水槽に置いてから海に放つのだそうだ。何でも一日、二日安全なところで育てるだけで海に放った後の生存率が飛躍的に高まるのだという。水槽がいくつかあるだけの簡単な施設なので、日本の産卵地でも作れないものだろうかと思った。

ウミガメといって思い出すのが電機メーカーで過ごした最後の年となった2000年にダイビング仲間と訪れた東マレーシア・ボルネオ島沖にあるシパダン島だ。水深600メートルの海底から隆起した島で、浜辺から海に入ると海底が果てしなく落ち込む迫力に圧倒される。海水の透明度は高く、ほかでは見られないような大量の魚の群れをそこかしこに見ることができる。日本の近海でウミガメを見ようものなら皆大喜びするところだが、シパダンではあまりにふつうに泳ぎ回っているのでありがたみがなく、しまいに「お前はもういいから、あっちに行ってくれ」とでもいいたくなる。

ある晩、ダイビングのガイドがウミガメの産卵を見に行こうというのでついて行った。月明かりと懐中電灯の光をたよりに人気のない浜辺を進むと、木のたもとに2、3人の人が集まっているのを発見した。覗き込むと大きなウミガメが産卵中だった。はじめて見るウミガメの産卵風景に感動したいところだったが、まわりにいたガイドにも観光客にも見えない怪しい風貌の人たちが何をしにそこにいたのかが気になった。しかし彼らがその後何をしたのか見届けることなくガイドに引率されて宿に戻った。

我々が帰国した数週間後にテレビのニュースでシパダン島に滞在していた外国人観光客がフィリピンのイスラム過激派組織アブサヤフに誘拐されたことを知った。あらためて地図で見てみると、この孤島はマレーシア、インドネシアとフィリピンの三国に囲まれていて、警備兵も立っていないことからどこからでも簡単に上陸できるように感じられた。ウミガメの産卵場所にいた人たちもどこの国から来た人かわかったものではない。その後2004年にシパダン島は立ち入り禁止となり、宿泊施設もすべて立ち退いた。

シパダン島に行くのが難しくなるとウミガメと一緒に泳げることのありがたみがにわかに増す。今回はモンスーンで海が荒れていたため海水浴すらできなかったが、今度スリランカに行ったときには是非タートルファームの沖合を潜ってみたい。