2009年6月6日土曜日

白毫銀針


スリランカ滞在中、ひょんなことから島の南部にある茶園を訪ねることになった。ここは中国宋代の徽宗帝の時代に作られていた白毫銀針(はくごうぎんしん)と呼ばれるお茶を、本国ではすでに廃れてしまっている伝統製法で作り続けている。白毫銀針は新芽の芽の部分だけを使って作られるため生産量が極端に少なく、茶摘みをする際に金のはさみで切った芽を金の器で受け、皇帝の口に入るまで人の手に触れることはなかったという。そしてその製法は門外不出で口外した者は死罪に処せられたというから驚く。その値段もビックリだったが、せっかくの機会なので話の種に一箱買って来た。

ここの茶園では何と烏龍茶も作っていて、これがまた独特の甘みがあって美味しい。同じ木でもスリランカは土壌がいいので他の国よりもおいしいお茶ができるのだという。コロンボにあるオークション会場では一年中オークションが開かれていて、日本のバイヤーは一番いい時期の一番いいお茶を高額で大量に購入するため、市場価格が一挙に跳ね上がるのだそうだ。日本人が海外で買い占めるのは最高級マグロだけではないようだ。

茶園の中にあるお茶の製造所を見学させてもらった後、茶園主の案内で様々な紅茶のテイスティングをさせてもらった。テイスティングルームの壁には弁護士をしているという茶園主の息子たちの写真があり、イギリスの大学の卒業式と思しき一枚には何とあのマーガレット・サッチャー元首相と握手しているツーショットのものもあった。茶園主の家はスリランカ独立後いったん茶園を接収され、その後その一部を取り戻して今日に至っているという。地元では相当な名士の家らしく、1971年にシンガポールのリー・クアンユー元首相がスリランカを訪れた際には自らが理事長を務めるゴルフ場で一緒にプレイをしたそうだ。

今なお海岸沿いに残る屋根や窓ガラスのない廃墟など、インド洋大津波の爪痕が残るスリランカ。タイのプーケットでは津波の被害を想起させるものをすべて取り払って何事もなかったかのように観光客を受け入れているというが、スリランカの場合は内戦でそれどころではなかったのかもしれない。しかしリー・クアンユーをしてシンガポールをスリランカのような国にしたいといわしめたほど繁栄し、観光産業が最大の産業だった時代もあったというから内戦が終わった今、この国には大きなチャンスが訪れているのかもしれない。再びこの茶園を訪れる機会があるかわからないが、そのときにはこの国はどのような変化を遂げているだろうか。